泣き言 in ライトノベル

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カノジョの妹とキスをした

とりあえず、この画像を見てほしい。

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 言うまでもなく、大手検索エンジンの検索結果なのだが、人は辛いけど気持ちいい感覚に侵食されるとあっけなく脳が破壊されてしまう。辛い物語に共感することで自身もまた同様の感覚を味わってしまうのだから、これは当然の帰結と言えるだろう。

 しかし、それはあくまで疑似的な感覚であり、恐らくよほど共感性の高い人間でない限りは実際に"そうなる"人は少ないだろう。セーフティネットのある臨死体験、それこそが辛い物語を読もうとする原動力である。今回、長らく出会うことのなかった将来的な修羅場・鬱、胸糞展開が想像されるに相応しいラブコメラノベを発見したので紹介していきたい。114514年ぶりにこうしてブログを書いているので君も三角関係ラブコメを読んで気軽に脳を破壊されよう。

 

 本作はGA文庫より刊行された『カノジョの妹とキスをした』であり、作者は『海空りく』氏、イラストは『さばみぞれ』氏である。作者である『海空りく』はアニメ化もされた『落第騎士の英雄譚』『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』などでも有名な実力のある作家と言えるだろう。

 ただ、一個人としてはデビュー作の『断罪のイクシード』があまり好みではなく『落第騎士の英雄譚』のアニメこそ面白かったもののそういった感情があり手が重くなっていた。

 しかし、そうした中で刊行された本作はタイトルから見ても三角関係や修羅場が十分されうるものでそういったタイトルが好みの俺としては迷わず購入させていただいた。

 

 本作の魅力は予測可能回避不可能な三角関係の提示である。既読の方には理解できるかと思うが、この作品において主人公の決断として『逃げる』ことができないのである。三角関係の行き着く結果として逃避行が存在するが本作においてはそれは構造的に許されないものとなっている。

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 上記画像は簡単な本作の相関図である。見てわかる通り地獄である。義理の兄妹であるという繋がり、生き別れの双子であるという繋がりは現実的・精神的な繋がりとして極めて強固なものとなり、安易な逃亡という手段を決して許さない。

 加えて、生き別れの双子という設定は入れ替わりや代替手段という更なる深みへ突き落すことを非常に容易とするものである。実際に作中においても時雨が悪戯として晴香の変装をするシーンがあり博道の精神を大きく揺さぶることに成功している。また、晴香の演劇部所属設定、時雨の学内における猫被り設定などもこうした展開の示唆をするには十分に余りあるものである。

 例えば、相手を装って攻めることも、拒否して罪悪感を煽り元に戻って代替手段として入り込むことも可能なのである! 非常にえげつない設定であることは間違いなく容易に読者に致命のダメージを与えうるものである。恐い。

 そして、何より恐ろしいのは晴香も時雨も、主人公を絶対に諦めないだろうという強い意志を感じさせるところである。恋人という掛け替えのない関係、兄妹・姉妹という切っても切れない関係、本来であれば、かけがえのないものになっていたはずの三人の人間関係がぐちゃぐちゃになり、どうしようもないほどに決裂してしまう姿をいともたやすく想像させてくれる。

 二人の女は主人公さえいなければ、再会した後、仲睦まじく掛け値なしに素晴らしい関係を構築できただろう。けれど、主人公という存在を天秤に掛けたとき、彼女たちは容赦なく片割れを切り捨てるだろう。痛みがないわけでも、苦しみがないわけでもないだろうが、彼女たちは間違いなくそれを実行する。

 本作で語られる物語はまだまだ序盤も序盤に過ぎないが、その片鱗は十分に見せつけてくれた。この三角関係の終着点を楽しみにしつつ、今回は筆を置くこととする。

 

ノシ