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泣き言 in ライトノベル

ライトノベルの感想を真面目に不真面目に書きなぐるサイト

僕らは誰も悪くない。 第一章 第一幕 第三節

うん、正直に白状すると、幸せを掴むとかそういう話はあんまり興味がなかった。ついでに幸せに掴まれるのも。

さりとて? まあ、言ったところで?

俺の足がかの公園に向かっていることは否定しようもない事実だった。
市と市の境目、辺りにぽつりと浮かぶ公園。ついでに死体とかぽいと浮かばされる公園(あくまでフィクションの世界だけど。でも実際、浮かんでそうなところもあるよね)。
斑な街灯に照らされる公園は、静まり返っている。
桃色に染まっていれば夜でも騒がしい公園は季節を外れた今、今日も今日とて静かだ。
きっとバラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹の季節はその代名詞とも言える植物の花の色のように人の頭を変えてしまうんだろう。
あんまり確かめてみる気はないのだけど、夜十時までには撤収してるとか多分冗談だと思う。
いや、確かめたことはないんだけど。
まあ、どれだけ言い訳したところで、怪しげな勧誘で
【?】
『私が貴方を幸せにしてみせます!』
と言われてほいほいついていってしまっているという自体には変わりない。うっそ、俺ってチョロすぎ!
さりとてさりとて、書いている小説の参考にとか、それなりに理由は思いつくけど、言い換えれば、それは言い訳に過ぎないわけで。
けれど、まあ、結局、不思議な引力に導かれていることだけは確かだったりする。
ふとした瞬間、誰もが抱くだろう?
【昌武】
「あー、外行きてえ……」
って感覚。まさにそれ。
例えば、星空を見たいとか蛍が見たいとか、場所間違えてんぞな望みがあるわけでもなく、ただ、本当に何でもなく外に出たくなることがあるのだ。
光に群がる蛾のように?
姫に群がるオタクのように?
いくら自嘲気味に語ろうと、いや、自嘲気味に語ろうとすればするほど、俺の滑稽さは浮き彫りになるわけで、意気消沈したくなるが、不思議とそんなことはなかった。
【?】
「ああ、よくもまあ、来てくれましたね?」
【昌武】
「それ、本当に来て欲しかった人間の台詞?」
【?】
「別に、貴方が来なければ、別の人間を探していただけですし? ……でも、まあ、貴方が来てくれて、そこそこ嬉しいですよ?」
何これ? ああ、ちょっと嬉しいなあとか俺は思ったりするわけですよ。
承認欲求と言っていいもので、要するに認められたいのだ。
もちろん、妹からは(多分)頼りにされている(と思いたい。心のうちは誰にだってわからない)けれど人間の欲求には飽きるところがない。
どれだけ満ち足りていたとしても決して満足することができない。
風船のようにぷくぷくと膨らんでいき――
【昌武】
「はあ、どうもありがとうございます」
実は滅茶苦茶嬉しいのに、全然そんなことはありませんよ的な虚飾にまみれた言葉を吐き出してしまう。
全男子諸兄に聞きたいのだけれど、思わず振り返ってガン見して、残り香をかこうとしてしまう美少女に会えて嬉しいとか言われたら、嬉しいでしょ?
そもそも嬉しくない人間なんている?
【?】
「……案外、余裕そう?」
【昌武】
「いや、もう全然余裕だよ余裕シャキシャキ、キャベツの千切り並にシャキシャキだよ。何ならしゃかしゃかチキンですらある」
あばばばっば……もうダメぽ。無理ゲーすぐる……土台、こんなの無理があったんだ。
人類の至宝たる美少女と会話とか汝艱難辛苦を乗り越えよレベル。
【?】
「大丈夫ですよ、落ち着いてください」
これは、天使? キモいオタクにも優しく声をかけてくれる……やっぱりこれは天使だったんだ。
僕の敬愛する天使様だったんだ……っ。
【昌武】
「おっ、お気に召されず……」
くるぉぉぉしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!??? 作家なら! 仮にも仮にも作家なら日本語くらいしっかり使えよぉぉぉっぉっぉぉ!!!
いや、そもそも時々文法から単語の意味まで、まるで違う文章を使ったりはするけれど!
くっそこういうときに間違えてしまうのはすげえ恥ずかしい。
【?】
「ふふっ」
【昌武】
「おげぇ……」
死にたい。会って数秒晒した醜態侘び寂び途絶えて腹を切る……そう、気分は完璧に切腹。時代もついでに切腹
俺よか上の人間は皆腹切って死んでくれればいいと思う。
作家とか会社員としてでも、両方?
【?】
「面白いかたなんですね」
【昌武】
「!?!?!」
この方、もしかして神なのでは? いやいや、ちょっと待て。これはあれだ、よくあるおべっか胡麻擦り美人局。英会話教材や壺やら絵画、そんなものを買わされる可能性だって多大に存在する。
世の中は怖いのだ。
【?】
「あっ、あまりお気になさらないでください。とりあえず、何というか、もう一度、お会いしてみたかっただけなんです……」
【昌武】
「はわわわっ!」
これはマゾい……じゃなくて拙いですよ。美人局! 美人局ですよこれはあいはぶどんとまねー! あいはぶどんとまねー! というか、えいご! えいごはなさないと!
ないない! おかねないない!
【?】
「ですから、その……多少? というか、もう少し? その……お話してくださればなぁ……と?」
【昌武】
「い、いくら、ですか……一時間で、おっ、おいくらです?」
【?】
「ど、どうして、そのお金が出てくるんでしょう、か……?」
【昌武】
「えっ、お金取るんじゃないですか……?」
【?】
「そっ、そんなわけないじゃないですか!」
ぶるりと空気が震えた。
驚くほど通る声が彼女の口から出たことに、正直、意外だった。落ち着いた雰囲気、美少女、どことなく、そういうものだと勝手にカテゴライズしていたのだ。
【昌武】
「ごめんなさい。勝手に思い違いしてた」
【?】
「えっ、あっ……その、わ、私こそ、大きな声を出してしまって、そのすいません」
どれだけ美少女であっても、取り乱す。そんな当たり前の事実が、僅かに心を落ち着かせてくれた。
【昌武】
「だ、だ、だ、だっだっだ、だいじょうです! はい平気平気超安心です!」
……僅かにしかもたなかった。悲しい。
【?】
「ふふっ、やっぱり面白い方ですね。あの、それで、よ、よろしかったら、連絡先の方、交換して、そのいただけ、ませんか? い、いただけないでしょう、か……?」
その恥ずかしがる姿は、出会った瞬間の鮮烈な印象とは、まるで異なっていて、けれどそれは俺の心を離すものではなく、
むしろ、ぐっと引き寄せるものだった――
【昌武】
「こ、こちらこそ、よ、喜んで?」
【麻美】
「私は、麻美。佐脇麻美と言います」
よろしくお願いしますと、彼女は丁寧に頭を下げた。

 

第二節