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泣き言 in ライトノベル

ライトノベルの感想を真面目に不真面目に書きなぐるサイト

恋するメトロノーム 第一稿・第二章その一

というわけで二章です。完成の暁には時系列が前後したりするかもしれません。なぜなら大まかなプロットは頭の中にしかないからです。

 

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「直人くん?」

「ああ、いや、平気だ。きっと多分、平気に違いない」
 隣には見慣れた学園の制服を着た少女。さらさらとした髪は肩の辺りにかかっている。ベージュ色のカーディガンもいつも通り。両サイドの髪をひと房だけ白いリボンで結っており、とてもよく似合っている。これもいつも通り。
 ならば?
 きっと、いつも通りではいられないのは、落ち着いてないから。
「もう、直人くんってば!」
 ちょっとかがんで、前から上目遣い。
 そのメラナイトのような瞳の深淵に吸い込まれそうになる。
「あ、そう。そうだよな! 俺たちこれから遊びに行くんだよな!」
「改めて言われると、なんだか恥ずかしいね」
「いいぞ! これからどうするどこから行く? 北条は、どこか行きたいところはあるか?」
「うーん、と。そうだなぁ、私はあそこ、が、いいかな?」
 和合駅前、うちの生徒もよくよく使う、ごくごくありふれたファミリーレストランだった。
「はい?」
「だからあそこ、が、いいな?」

 まさか遊びに行くと駅前に出て、まず最初にファミレスに直行すると思わなかった。
 北条の意思がとても固く、また俺も思わずそれに気圧されて黙って付き従うしかなく、気まずい沈黙が破られるのは注文した珈琲が届けられるまで待たねばならなかった。
「……あのね、私たちは遊びにいきます。けど、あらかじめ回るコースを決めた方がいいんじゃないかなって。それで、どうせなら腰を落ち着けられる場所がいいんじゃないかって」
「あ……」
 そうだ、誘われたのは俺で、それも昨日だった。けど、それでも、あらかじめ下調べやらなんやらを少しくらいしておいてもよかった。
 北条が怒っているのは、そういうことだ。
「あのね、それで色々行ってみたいところが――」
「ごめん、俺が悪かった。正直、浮かれてた。女の子と遊ぶのは初めてで、本当は小躍りするくらい嬉しかったのに、それを必死に――」
「いいよ、直人くん。私も、ちょっとごめんなさい」
 北条は苦笑を浮かべながら、ブラック珈琲を口に運ぶ。
「ああ、ありがとう。これからは俺も北条と一緒に――」
 カツン!
 それは、間違いなくカップが思い切り叩きつけられる音。
「直人くん、は行きたいところとか、あるの?」
「え? いや、俺は特に」
「そっか、ヘタレなんだね」
「ぐっ……」
 確かに行き先も満足に決められない男はダメだと、よく聞くが。
「そ、そういう北条はあるのかよ? 行きたいところ」
「そうだなあ、私は水族館かな?」
「水族館!?」
 確かここから最寄りの水族館って結構遠いというか……むしろ、かなり?
「あっ、大丈夫だよ。さほど遠くないから。ほら、浅霞辺りのホテ――」
「ストップ、北条。お願いだからストップしてくれ。頼むからそれ以上は言わないでくれ」
 水族館ってそういうことかよっ!
「あはは、直人くんこういうとき、だけ、決断が早いんだね。まだ最後まで言ってないのに」
「からかってるだけなんだろそうなんだろ!」
 真偽を確かめようにも、北条はにっこりと笑っていて、冗談にも、本気にも取れる。取れてしまう。
「どうする直人くん。私はどっちでもいいけど?」
「……わかった。俺も男だ、覚悟を決めよう」
「えっ……ちょ、直人くん?」
 おそらく、鬼気迫っているであろう俺の剣幕に、北条の鉄仮面も微かな亀裂が。
「ほ、ほら、私たち、まだそんな――っ」
「ごめんなさい!」
 ぐいっと、前のめりになった顔面を、そのままテーブルに擦りつけた。
「…………」
 判決は、無言。罪人には、判事の宣告をただ待つことしかできない。
「ただ、本当にわからないんだ。どうすれば北条が楽しんでくれるか、悲しいことに全くわからない」
「……それだけ?」
「だから、今日は俺のことは気にせず、いや、できれば気にしてもらって、北条の行きたい場所に、あるいは一緒に楽しめる場所があれば、二人で行こう」
「ふぅ……」
 深い、溜め息。呆れさせてしまっただろうか。
 でも、俺は女の子が楽しめるような場所は知らない。そして、そんな場所で俺も楽しめるかなんて、もっとわからない。
 ちらっと、顔色を伺おうと視線を上げると、そこには悪戯っぽく笑う北条が。
「直人くんってやっぱりヘタレだよね」
 ぐさっ
「まあ? 事前に考えてこなかったというのは信じるとして? 実際に思いつかないってところも事実なんだよね?」
 ぐさぐさっ
「自分の行きたいところがあっても、私が納得するか心配で言い出せないとか?」
 ぐさっ、ぐさぐさっ
「それで結局、私に投げてる辺り、直人くんってどうしようもないくらいヘタレだよね?」
 そんな辛辣で、けど言い逃れできない事実が、容赦なく突き刺さる。
 これ以上言い訳せず、甘んじて北条の責めを受け止めよう。
「でも、それが直人くんなんだよね?」
 子供っぽかった表情が、優しく柔らかなものへと。しょうがないなぁとちょっと呆れていて、けどそれを許してしまう表情に。
「色んなことを考えちゃって、必要ないことまで考えちゃって、どうしたらいいのかわからなくて、結局投げちゃうのが、直人くんなのかな?」
「……本当にごめん」
「仕方ないよ。私たち、あんまりお互いのことよく知らないし、こういうことはよくあるよ」
 北条は、テーブルに備えつけられたフレッシュを手に取り自分の珈琲へと注いでいく。
 白と黒とが混ざり合って甘くなる。
「北条?」
 けど、それは今の関係を否定しかねないもので、
 そうやって諦めてしまうことは、ちょっと心に隙間が空いてしまったようなもので、
 それがそのままなことはちょっとどころじゃなく、悲しい。
「だから、これから」
 間抜けな顔を浮かべただろう俺と違って、北条は笑った。
「これから、お互いのことを、知っていこうよ、直人くん」
「……それも、そうだな」
「じゃあ、直人くんはどこか行きたいところはある? もちろん、私がいなかった場合」
 考えるべきことが、そんなことでちょっと自分が情けなくなる。
 でも、それでも構わないのかな。むしろ、それでいいんだ。
 小説で繋がって小説でお互いのことを知った。だから、知っていることが少なくて、どうしたら相手のためになるかがどうしてもよくわからない。
「俺が行きたいのは――」
「あ、ちょっと待って」
 意を決して口にしようとした言葉は、あっさりと遮られて決意もろとも吹き飛ばされてしまう。
「いや、それちょっと酷くないか?」
「ごめんね、直人くん。それさ、多分私も同じこと考えてると思うの」
「? だったら、それでいいじゃないか」
「えっと、終わりよければすべて良しってよく言うじゃない? だから――」
 先ほどのお返しに、北条が言わんとすることを察して、先回りしてやろう。
「北条は、ショートケーキって好き?」
「うん、好きだけど。あ……っ」
「俺は、ついつい最初に食べちゃう方なんだけど、今日は北条に合わせるよ」
「あぁ~直人くん、結局私任せなの?」
「良いんだよ、だって俺は北条のことをもう二つも知ったんだからな。今回はそういうことに使おうって言い出したのそっちだろ?」
「あ、ずるーい直人くん。じゃあじゃあ、直人くんはケーキだったら何が好きなの?」
 北条が食いついてきてくれて、内心ほっと胸を撫で下ろした。
「ほらほら、早く白状しないと~」
 にこにこと笑いながら、テーブルの下では足をつついてくる。
「そうだな、俺はチョコレートケーキが好きかな?」