泣き言 in ライトノベル

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冴えない彼女の倒しかた第五話

「と、まあ。何があったかは察することができるけど、どうしたの? 倫理君? まるで覚悟を決めてクリスマスに告白しようとしたら手痛いカウンターを食らった男子大学生みたいな顔してるわよ?」

 一応、俺はベッドの中。詩羽先輩には顔を見られてはいない。

 けど、よっぽど酷い顔をしてると思われてるんだろうな。

「……まあ、雪が降っていないから一応セーフですね」

「男の弱ったところを看病するなんてどう考えてもフラグだと思わない? 倫理君」

 それは彼女と復縁できないパターンや。意味するところはサークル存続の危機。

「……英梨々も美智留も呼んでるんでしょう? どうせ」

「それは、ね。このまま傷心の倫理君を慰めて肉欲に溺れるのも悪くはないけど、そうはいかないでしょう? 私たちの子供のこともあるわけだし……」

「現役作家がそういう表現使うのやめにしない!?」

 あの後、ふらふらと、そしてなんとか帰宅した俺はそのままベッドにダイブ。翌日に打ち合わせの予定があった詩羽先輩の襲撃を受け、今に至る。

「澤村さんに啖呵切ってメインヒロインを攻略しにいったかと思ったら随分と情けない結果ね」

「面目ないです」

 ベッドの中から這い出て、そばにいてくれていた先輩に頭を下げる。

「別にいいのよ、倫理君。失敗したなら、またやり直せばいい。途中で折れちゃったり、出ちゃったりしても、私は気にしないわ」

「心が! ですよね! 弱音が! ですよね!」

「とにかく、時間をかけてゆっくりとね?」

「詩羽先輩……」

 先輩の手が俺の頭を優しく撫でてくれる。いいこいいこしてくれる。そして、その手が背中に回り、ゆっくりと引き寄せられていく。

「霞ヶ丘詩羽ぁあ!」

 部屋に響き渡るのは甲高い声。音源の方を向くと金色の髪。そしてあざといほどしっかり結われたツインテール。そして嶋村中のジャージというアンバランスな服装。

 金髪ツインテールで傍若無人の幼馴染こと、澤村・スペンサー・英梨々だった。というかお前、まだそれ着れるんだな。

「やっほー、トモも大丈夫?」

 英梨々のあとに続いて、イトコである氷堂美智留が顔を出す。

「チッ」

 舌打ちとともに詩羽先輩は手を放す。

「あんた、あたしが来なかったらどこまでいくつもりだったのよ!」

「何を勘違いしているのかは知らないけれど、最後までよ?」

 霞ヶ丘先輩は悪戯っぽく、いつもみたいな誤解を招くような台詞を口にする。

「あー、もういいわ。倫也の表情を見たらわかる。あんたがただのヘタレな誘い受けな女で自分から手を出すことはないってことがね」

「……あら、幼馴染という圧倒的なアドバンテージがありながらもつまらない意地で距離を開けておきながら、エロ同人でしか自分を慰められない絶壁さんこそ何を言っているのかしら?」

「増えてる! ちゃんと増えてるも~ん!!」

「……ごめんなさいね、澤村さん。1mm以下の変化ですらあなたにとっては大事だというのに、そのあたりに気を使えない私を許して頂戴?」

 と、部屋に揃ってすぐさまこのような罵り合いの焦土合戦を繰り広げるわけだから、この二人は全く変わらない。

「ねぇ、トモ」

「そんないらん気を使うなあぁぁああ!!」

 甲高い英梨々の叫び声をBGMにいつの間にか、美智留がベッドに侵入してきた。

「どうした、美智留?」

「そう? なら言わせてもらうけれど、太ったって言葉を知っているかしら?」

「あんたに言われかたないわよ、負け狸がああぁぁあ!!!」

 口喧嘩をいつも通りだなぁと半ば仲裁する気も起きずに眺めていると、いつの間にか美智留は目と鼻の先だ。

「ねぇ、トモ。久しぶりにヤラせてよ」

「は?」

 溜まりに溜まった性よ……じゃなくてプロレス欲を発散しようとする美智留にストップがかかったときには何もかも遅かった。いや、やましいことは何もなかったんだけどね?

 

「と、ととと、倫也! 大丈夫なの!?」

大丈夫だ、問題ない

 プロレス地獄から解放された俺はというと痛めた体をいたわるかのように湿布を貼っていた。というより、貼り直していた。

「氷堂さん? なるほどあなたがプロレスが好きだということは理解しているのだけれど、その実験台として倫理君を選ぶというのは一体どうにかしたらどうなのかしら。女子高生、いえ、女子大生とプロレスごっこをしたいと思っている人なら、他にたくさんいるわよ?」

「いやいや、それは明らかに悪化してるじゃん。別にさ、私とトモの問題なんだから、いちいち気にする必要もなくない?」

 というのも本来それをすべきはずの美智留が詩羽先輩の説教にあっているからであり、おおよそこの手のスキルを使ったことがないであろう英梨々が壊滅的な手際であったからであり。

 こういうときに一番頼りになるであろう女の子がいなかったからであったりするのだ。

「いえいえ、それが関係あるの。少なくとも倫理君は私の担当編集なんだからいざってときに動けないと困るし、澤村さんのサークルの代表でもある。それにあなたのバンドのマネージャーでもあったわよね? 倫理君が怪我したらあなたも困るでしょう?」

「あ~、いや、そのへんにしておいてください。詩羽先輩、話が進まなくなりそうです」

「ていうか、霞ヶ丘詩羽に呼ばれてきてみたら、倫也とプロレス始めようとしてるし、そうかと思ったら氷堂さんとプロレス始めてるし一体どうして私は呼ばれたわけ? こっちはイベントの用意で忙しいのだけど」

「あら、そんなはずはないでしょう? 澤村さん、あなた最近イベント終わったばかりでスケジュールに余裕はあるでしょう?」

「ちょっと倫也! なんで霞ヶ丘詩羽が知ってるのよ! まさかバラした? バラしたの!?」

 柏木エリの新刊くらいホームページ見れば一発だろなんて答えを、まぁ英梨々は求めていないのだろう。かと言って、詩羽先輩の方を見れば、わかっているわよねとの顔。

 決して、霞ヶ丘詩羽は柏木エリの信者なんだなんてことは言えないのだ。

「倫理君は知らないわよ? それにいつまでたっても男に任せていたら育つものも育たないわよ?」

「あんたにだけは言われたくないわよ、暗黒作家!」

「ねー、トモ。結局加トちゃん復帰に関してはどうなったの?」

 瞬間、いつのも騒がしい空間が、壊れさる。俺も、英梨々も、詩羽先輩も、黙ってしまって事情を知らない美智留だけが視線をさまよわせていた。

「あ、あれ? 今日はトモが説得してくるんじゃないの? 加藤ちゃん……」

 ちょっとばかしふざける気分も削がれたのか美智留の口調もいつになく真剣だ。

「はぁ、……加藤さんの説得に倫理君が失敗。それでこれからどうするのかという話を私たちはしに来たの」

「そこまで倫也に期待してたわけじゃないけど、まさかこれほどまで見事に失敗するとはね。とはいえ恵がここまで意固地になるとは思わなかったわ、あたしも」

「それに関しては本当に申し開きもございません……」

「倫也、あんた本当に恵に謝ったの? あの子だって謝られて許さないほど狭量じゃないでしょ?」

「それは……」

 謝ることすらできなかったなんて、謝罪を受け入れてすらもらえなかったなんて言えない。

「ねぇ、倫也君、あなたは本当はわかってるんじゃないの?」

 それは、詩羽先輩にからかう気なんて一切ない、マジのトーンだ。

「加藤さんがどうして二年前から意地を張り続けているのか、あなたたち二人の諍いの原因はなんなのか。倫也君は本当はわかっているんじゃないの? わからないふりをしているだけなんじゃないの?」

 返す言葉なんて、もはやなかった。

第四話