天鏡のアルデラミン-太陽の刀-
本作品はねじ巻き精霊戦記天鏡のアルデラミンの二次創作です
また、本作品には性描写が含まれており18歳未満の閲覧を禁止します
加えてR-18としての要素はなんちゃってであり、それを期待している方には迅速なブラウザバックを推奨します
カトヴァーナ帝国における軍事史を紐解く上で避けて通れないのが忠義の御三家である。イグゼム、レミオン、ユルグスだ。その中でもイグゼムは保守という立場を貫き、革新派であったレミオンとの対立も少なからず存在した。
イグゼムは守るべき国が滅ぶまで守り続けるという強固な意思の集合体であるとも言えた。では、その集合体の形成の上でもっとも重要視されるものは何か。
強さではない。それはイグゼムの二刀という特例を鑑みるに前提といえるものだ。では何か?
それは至極単純なことである。
――血脈を保つこと
帝国が滅ぶよりも前に肝心のイグゼムが滅んでは守りようがないからだ。
そして、当代のイグゼム。ヤトリシノ・イグゼムもそのあり方からは逃れられない。いや、本人もそれを当然のものだと受け止めているのだろう。
「やぁ、ヤトリ。ここは結婚おめでとう、とでも言うべきだろうか」
「それは私を訪ねてから言うべきセリフね」
ヤトリシノ・イグゼムは近々結婚する。相手はヤトリの目の前にいる青年イクタ・ソロークではない、イグゼム派の中でも特に武勇の誉れが高い将官だ。選ばれた基準はヤトリの好みでもなければ、親からの押しつけではない。イグゼムとしての決定だ。
「呼びつけられた私が言うのもあれだけれど、きちんと準備しなければいけないのだからこちらとしては忙しいの」
「わかってるさ。だからこそ、こうしてその日ではなくこんな前々に呼んでるんだよ。イグゼム少将」
「なら、なるべく早く開放してくれるかしら、サンクレイ中将」
かつては騎士団とも呼ばれたイクタ・ソロークとヤトリシノ・イグゼムの視線が絡み合う。ヤトリは少しだけ、ほんの少しだけ、苛立ってしまった。イクタの前では、ヤトリシノのいられたからだ。
「ごめんごめん、ちょっとした冗談だよ、ヤトリ。君を呼んだのも個人的にお祝いしたいからさ。ちょっとついてきて」
そう言って先行するイクタにヤトリは黙ってついていった。
ヤトリが連れていかれた場所は軍の司令部を兼ねた天幕だった。中にはご丁寧に寝台まで用意してある。
「あんた、まさかこんなところにまで女を連れ込んでるんじゃないでしょうね?」
「いくら常怠常勝なんて言われてる僕でもそんなことはしないよ。北方動乱の時にマシューやトルウェイにも言ったけれど、ここに軍人としている以上部下の信頼ほど重要なものはないんだ」
中に入るとすぐさまイクタは思い出したように声を上げる。
「ああ、そうだ。君にこれを言うのは非常に心苦しいんだけど、今だけはそれは外しておいてくれない?」
それとヤトリの腰の辺りを指差す。そこにあるのはサーベルとマンゴーシュ。イグゼムの象徴にして、不敗の誓とともに許された特例だ。ヤトリはちらっと自らの二刀を見つめると、そのまま溜め息を吐く。
「仕方がないわね」
イグゼムの誇りとも言える二刀を入口の台に置いた。少なくとも、手の届かない場所に刀を置くというのは普段のヤトリならばありえない行為である。しかし、先程イクタは個人的にと言った。つまり、イグゼムではなく、ヤトリシノなのだ。
イクタの前ではヤトリはイグゼムでいる必要はなくなる。それでも帯刀はしている。そのイクタの頼みだからこそ、こんなことができるのだ。
「まあ、僕はお茶でも淹れるから、その辺にでも座っておいてよ」
「いえ、それくらいなら私が――」
「今は君が客人だし、それくらいは僕がやるよ」
そう言ってイクタは茶を淹れ始める。手持ち無沙汰のヤトリは待っているしかないのだが、座る場所が寝台くらいしかないのはどうなんだろうか。そんな男女の機微をさほど気にすることはなく、ヤトリは寝台に腰掛ける。
「はい、ヤトリ。ちゃんと濃い目のお茶に適度に温めた牛乳を加えてるよ」
「一応戦場なんだから、牛乳は煮沸しておきなさい。ありがとう」
ちょっと文句を言いながらも素直にヤトリはお茶を受け取る。
「改めて言うのもなんだけど、結婚おめでとう」
「あんたに祝われるなんて全く思ってもみなかったけれどありがとう」
祝杯を上げるかのように二人は軽く器を当てる。イクタはお茶を一息に飲み干すと、器を背後に投げ捨てた。
「イクタ、あんたどういうつもり?」
背後で器が割れる音がする。その隙にヤトリは寝台に押したおされていた。ヤトリのお茶を本人は見事に避けている。薄緑色の染みがシーツに広がっていた。
両手を掴まれて押し倒されてもヤトリは平然としている。この状況をひっくり返すのはヤトリにとっては容易い。だからこそ、その真意を問いただす方が優先された。
「昔話をしようか、ヤトリ。八年くらい前になるかな? その時、僕たちは北域鎮台への出張配属の任務をしていたよね。シナーク族の討伐でようやく三部隊合流したとき、マシューとトルウェイで話をしていたんだよ」
ヤトリを押し倒したままイクタは視線を逸らすことなく、見つめている。二人とも動揺の色は見られない。
「女性に聞かせるにはちょっと躊躇われる話なんだけど、戦時中に欲求の処理をどうしてるかって話になってね?」
「私だかよかったものの、ハロだったり殿下の前で言ったらぶん殴ってたわ」
「それはちょっとばかし困ったことになるね。話を切り出したのは我が友マシューだよ。ま、言いだしっぺがとうかっていうのは置いておくとして絆の勇者と孤高の戦士っていう例えを使ったんだよね」
「あんたらしい例えね」
ヤトリはふっと笑みを溢すが、すぐさま表情は元に戻る。
「で、その話が今の状況とどう関係あるのかしら? 流石に勇者とも戦士とも言い難いわよ?」
「あんまり甘く見るなよ、ヤトリ。今の僕は獣だ」
「……つまり、見境を失った兵士のように私を襲うと? その割には大人しいのね」
「いじめてくれるなよ、ヤトリ。建前だよ建前」
「私が、それを望んでいるとでも?」
結婚を間近に控えたヤトリがイクタと関係を持ったというのは確かに風聞としてはよくない。イクタから無理矢理されたという常識的に考えればありえないことでも言い訳としては機能するのだ。
「まさか。これは僕個人への慰めみたいなものだよ。ひょっとしたら、死んでしまう君への自己満足の手向けなのかもしれないけどね」
「結婚したからといって、私が死ぬわけではないわ」
「死ぬよ。いや、少なくとも僕から見れば死んでしまう」
否定を挟むヤトリをイクタは認めない。その目は疑いようのないくらいに本物だった。
「君は良くも悪くも真面目だ。そんな君が結婚したあとも僕と同じように接してくれるだろうか。いや、僕は思わないね。君はきっと相手に申し訳ないと思うはずだ。きっと元通りの関係にはなれないよ」
「けれど、仕方のないことだわ。それに私とあんたに男女の関係があったとでも?」
「それは否定しない。けれど、僕の中で死んでしまう君を悼むくらいはしたって構わないだろう? 君は結婚を気にこれ以上なくイグゼムであることを強いられるだろう。妻として、母として、子供の指導役として、少将として、君がヤトリシノでいられることはこれ以上なく目減りするはずだ」
そうして、一旦言葉を切ってイクタはヤトリの反応を伺う。ヤトリは口を開かず、ただイクタを見つめているだけ。
「ねぇ、ヤトリ。別にもういいじゃないか。例えば僕の知らないイグゼムの規定、結婚相手に純潔を捧げろなんてものがあるわけでもないんだろう? それは今ここで僕に奪われたところで問題ないはずだ。だって君には僕を蹴飛ばして逃げるという選択肢もあるんだから」
そうヤトリは嫌ならば逃げ出す権利があるし、それだけの実力は彼女に備わっている。
突然の事態に怯えているなどそもそもイグゼムに言うべきセリフではない。
「可哀想だね、ヤトリ。このまま結婚したところで君には何が残るんだ? このままイグゼムになっていき、そのイグゼムも土に還りまた次代に引き継がれていく。子供だって君の子供ではなくイグゼムの子供だ。君にはイグゼムではない君の喜びはあるのかい?」
「私の……幸せ?」
「ヤトリ?」
ヤトリは自嘲気味な笑みを浮かべる。それは圧倒的な武勇を持って国を守り、誰もが憧れる名声を得た女性には珍しい表情だった。
「クルシク中佐、ルシーカ・クルシク中佐にも、同じことを言われたわ」
「ああ、そうだったね。レミオン派の『氷の女王』ルシーカ・クルシクを看取ったのは君だ」
「『女の子の幸せに触れられず、人を愛し愛される喜びも知らず。あなたは何もむくわれないまま、いつか朽ち果てた屍の上に打ち捨てられるだけなのに――』」
ヤトリはルシーカ・クルシクの言葉を暗唱していた。国を守ることなど二の次だと、たった一人の男を高みに押し上げるために、その男を支えることだけに力を尽くした女の最後が脳内に蘇っていた。
「そっか、僕も君を待つ未来は彼女の言葉とさほど違いがないと思うよ」
ヤトリシノの幸せとはなんだろうか。国を守り、民に尊ばれ、誇りを貫き通して死ぬことだろうか。否だ。
それはイグゼムの幸せだ。
ならば、ともに苦難を乗り越えてきたイクタ・ソローク、レミオン・トルウェイ、マシュー・テトジリチ、ハローマ・ベッケル、シャミーユ・キトラ・カトヴァンマニニクら騎士団とともに歩む未来だろうか?
それも否。
彼ら彼女らとは公私問わず仲が良いが、イグゼムとして出会った。彼らとともに軍籍に身を置く以上ヤトリシノは死ぬ。そこからはイグゼムの幸せだ。
そして、ヤトリにとっての例外はその騎士団の中の、眼前にいるイクタ・ソロークなのだろうか。
ヤトリシノ・イグゼムには判断がつかなかった。
「どうかした? イクタ。あんたは今だけは獣なんじゃなかったの」
「その言葉、今だけは間違いを犯してしまうってことでいいのかな?」
「さあね、私にはわからないわ」
ヤトリはふっと笑みを溢す。イクタはそれを狡いと思った。そして、鍋を煮込んだかのように湧き上がる罪悪感を必死になって心の奥底へ押し込んでいった。
イクタは無言のまま、ヤトリの服を脱がしていく。いつも女漁りをしているだけあって、随分と慣れた手つきだ。やや大ぶりな乳房が露出するとヤトリは僅かに頬を赤く染める。女として見られるというのはまた別の恥ずかしさがあるのだろう。
「いつもみたいに気を利かせた話はなし?」
「……勿体ないからさ。綺麗だよ、ヤトリ」
「ありがとう、イクタ。でも、あんたは辛そうよ」
イクタがそのまま胸を愛撫する。頂上の桜色の突起を親指が優しく撫でる。その微かな刺激にヤトリの体が僅かに跳ねた。両手の指が膨らみを征服していく。弾力が指を押し返して、また押される。
一本、二本、三本――九本。イクタ・ソロークの指は結局九本しかない。
「結局、私が代わりをするなんてことはなかったわね」
快楽の泉に浸かって薄く上気した顔でヤトリは過去を思い起こす。
「そりゃ、僕が細心の注意を払ったからね。君の指は何物にも代え難いものだ」
「私は、それを望んでいたのかもしれないわね」
イクタの表情は苦悶に歪んでいる。ヤトリの行為に対して懺悔しているかのようだ。
「ねえ、イクタ。こんなことを言うといやな女かと思われるかもしれないけれど……」
「僕は君を超える女にはついぞ出会わなかったよ。君は誰もが憧れる、素敵な女性だ」
「ありがとう。私って、美人よね?」
「ああ」
「初陣の頃みたいな子供でもない、一応の結婚適齢期。あんたの理想に近づくには流石に時間が足りないかもしれないけれど、それでも郡を抜いた美人よね、私は」
「ああ」
ヤトリには、今抱かれている男の表情が痛いほど理解できた。何の誇張も嘘偽りもなく、ヤトリシノ・イグゼムとイクタ・ソロークの間には特別な関係がある。それをこんな形で終わらせてしまう、終わらせなければならないイクタの後悔は、それに甘えてしまっているヤトリには想像して理解することはできても体感することはできない。
「なら、せっかくの美人を抱いてるんだから、少しぐらいは嬉しそうにしなさい」
「そうだね……」
胸への愛撫を続けていた右手がヤトリが守り続けていた秘境へと伸びていく。その指が、侵入を拒む花弁を少しずつ和らげていく。僕は悪い奴じゃないと必死になって花を宥めていた。汚れを知らない美しい花に快楽の水を撒く。
「あっ……ああ! イ……ク、タっ!」
堪えていた嬌声が微かに漏れる。初めて味わうであろう感覚に抗うようにヤトリはシーツを強く握り締める。
「力、抜きなよ、ヤトリ。逆に辛くなるよ?」
「こっ、ちはっ、ねぇ……あんた、みたいにっ! 慣れて、ないっ……のよぉ!」
「流石にまだ挿れてないんだから、気張りすぎだよ」
長い軍籍の末に、無骨さを身につけた指が腔内を掻き回す。快楽を撫でられて、ヤトリの甘い声が漏れる。それがイクタの劣情を激しく燃やしより一層指を動かさせる。指から伝わる愛が眠りかけていたヤトリを大きく揺さぶる。
「ねぇ、イクタ」
愛おしそうな表情でヤトリの手がイクタの頬へ伸びていく。
「挿れるよ、ヤトリ」
「ええ」
怠惰に飲み込まれるように、快楽の沼に沈み込むように、ヤトリはそれを許容する。受け入れてしまう。
「つっ!」
破傷の瞬間、ヤトリは痛みに顔を歪める。
「ヤトリ、力を抜いて。こればっかりは僕にもどうしようもない」
「せめて、今っ、だけは……私を、愛して?」
炎髪の女の中に高温の肉棒が埋め込まれていく。イクタの手がより優しく、より柔らかく、より繊細に愛撫を続ける。
「ヤトリ、愛してるよ。君は誰にも渡さない」
「私も、あんたと別れたくない」
二人ともまるで恋人みたな自らのセリフを心の中で笑っていた。虚像だと大人である二人が理解できないはずもない。そして、全てを投げ捨てられるほどの地位と負うべき責任はとうの昔に過ぎ去ってしまっていた。痛みを堪えるような荒い息がヤトリの口から漏れる。
力を抜こうとして逆に力が入ってしまう、初めてのヤトリでは仕方のないことだが、その微笑ましさにイクタは思わず笑みを溢す。
「腹、立つわねっ……その、えがおっ!」
「これまで、経験を積んできたもの……の差だよ!」
ヤトリがイクタを掴んで離さない。腔内の襞の一つ一つがこの時間を、溢れゆく時間を掬い取るように、剛直に絡みつく。イクタは痛みを和らげるようにゆっくりと、ゆっくりと腰を動かしていく。
「ど、う? きちんとぉ! あんたを……気持ちよく、させられてる?」
「ああ、流石ヤトリ……だよ。君こそ大丈夫かい?」
「こんなの、戦争にっ、比べれば……全然、へいき、よ」
腰を振るイクタの肉棒に快感の奔流がせり上がる。熱棒が膨れ上がり、ヤトリの体を抉り、心を満たしていく。
「そろそろ、出そう、だ!」
「いい……わ、あんたの劣情、この、ヤトリシノ・イグゼムがぁ、全てっ、受け止め、て……あげるっ!」
堪えきれない熱量がイクタを容赦ない動きへと駆り立てる。嬌声が上がり、もはや隠しだてることも不可能だ。
「ありがとう。そしてさよなら、ヤトリ」
イクタ・ソロークが親友に別れを告げる。そのまま、腔内に愛の種子がばらまかれる。
ヤトリシノ・イグゼムは劣情を爆発させ、絶頂を迎える。体を痙攣させて蕩けるような瞳でイクタを見つめる。
迷わずヤトリの腔内に射精したあとイクタは何も言わずにそれを抜いた。イクタを見上げるヤトリの頬に一滴の雫が落ちる。
「あれ、おかしいな。こんなはずじゃ……」
「イクタ、何であんたが泣くの?」
ヤトリの温かい手がイクタの涙を拭う。
「ああ、きっとこれが君と話す最後の機会かもしれないからだろうね。最後ぐらいは笑っていたかったけどちくしょぉ……結構辛いな」
「ねぇ、イクタ。あんた、女性には妊娠できる日に関して周期があるって言ってたわよね」
「言ったね。排卵日に精子が卵子に到達しないと子供はできないよ……まさか」
ヤトリは穏やかな表情で自らの下腹部を眺めていた。それは決してイグゼムとしてのものではない。
「これは決して責任を取るのが嫌だからってわけじゃない。ヤトリ、その子は生んでは駄目だ。イグゼムとして生まれてしまうその子にこの運命は残酷すぎる。まだ君みたいな炎髪ならいい、ごまかしが効く。けれどもし僕に似でもしたら」
「この子は生むわ。私が育てる」
「ヤトリ!」
イクタは叫んでいた。流した涙もいつの間にか乾いている。
「いいでしょう? きっとこの子がいれば私はヤトリシノでいられるから」
イクタには何も言うことができない。ヤトリは幸せそうにそこに手を置く。その表情にイクタはちょっとだけ嫉妬をした。