泣き言 in ライトノベル

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冴えない彼女の倒しかた第四話

「ところで安芸くんは最近どうしてる?」

 たまたま入った喫茶店で加藤はシロ○ワールを注文していた。お前、それ好きだな。大事な話をするはずだった空気はどこへやら、俺たちは普通にお茶していた。

「まあ、色々だよ。英梨々の手伝いやったり、先輩の編集やったり、美智留のマネージャーやったりな」

「うわ、そんなに色々やってて体持つの?」

「元から色々バイトやってたからな体としては問題ない」

「それ、なんか引っかかる言い方だよね」

「まあな、英梨々には散々パシられるし、詩羽先輩の創作テンションはおかしいし、美智留にはことあるごとにプロレス技をかけられるしな」

「最後は思い切り体が問題になっているよね?」

 先程まで加藤の口元に運ばれていたフォークがそこで一旦テーブルに置かれる。そして加藤は頼んでいたコーヒーに手を伸ばす。その口元は僅かに笑っていた。

 よし、感触としては悪くはないな。いきなり謝罪とか空気が最悪になる未来しか見えない。

「そっちこそどうなんだ、女子大生?」

 加藤の進路は大学。それほど頭がいいわけでもなく、悪いわけでもない。中の上。いかにもらしい大学だ。

「ん~、あんまり大したことはないよ? 友達とお茶したり、バイトしたり、サークルとかには入ってないけど普通の大学生活」

「そうか、お前らしくてなんか安心したよ」

「なんか馬鹿にしてないかな?」

 加藤の表情は若干フラット。

「馬鹿になんてしてないさ、ただ……」

「ただ?」

「加藤って、さ。普通に可愛いなって、やっぱり」

「ありがと、やっぱりいきなりだね」

「あんまり気持ちがこもってないって?」

「うん、今の台詞はなしにしておくね?」

 やっぱり加藤には安定感があった。初めて出会った時にも、一緒になってゲームを作っている時にも感じた安心感。嫌な。

「なんか安芸くん、すっかりリア充だよね。英梨々に霞ヶ丘先輩に、氷堂さん。あはは、みんな可愛い女の子だね」

「いや、決して悪徳ジゴロみたいに手を出してるわけじゃないからな?」

「だよね。うん、安芸くんってそういうのじゃないよね。決められない男の子だもんね」

 なんだ、急に言葉に棘が混ざったぞ。

「……男の子って歳でもないだろ」

 だから、言い訳みたいな言葉が口から溢れて、

「英梨々も霞ヶ丘先輩も、氷堂さんも凄く実力をつけてるよね。わたし、一応追ってるんだよ?」

 そんなことは知ってる。美智留のCDを買ったり、先輩にファンレターを出したり、英梨々の同人誌を買いに来ていたり、全部知ってる。

「……見かけたことはあるよ」

 言い訳しか出てこないから加藤に先手を取られてしまう。会話の主導権を持っていかれる。

「それじゃ、そろそろ本題に入ろうよ、安芸くん」

 そんなこと言われたら、こっちは何も言えなくなる。言うことは出来るかもしれないけれど加藤に潰されてしまう。

「……一緒にゲームを作らないか、もう一度。今度こそきちんと成功させるから」

「安芸くんが、それを言うかなぁ?」

「いや、あの時の失敗を教訓にして今度こそ」

「だから、そうじゃないんだよ。安芸くん、そうじゃ、ないの」

 ズキリと心が傷んだ。鋭利なものが刺さったみたいな痛み。新しい痛みじゃない。俺の心に刺さっていた、忘れていたはずの傷が今更になって開く。

「あの時のお前は違ったのか。やっぱり、本当は……」

「だからさあ、なんでそんな解釈しちゃうかなぁ」

 加藤はあの時のようにどこか苛ついていて。ひょっとしたらあの時よりも大きく。

「ごめんね、安芸くん。わたしやっぱりまだ消化できてないや。正しいことをしている安芸くんを、友達だと思っている安芸くんを、許せてない。二年前のことですら消化しきれてない。だから、ごめんね」

「なんでだよ、加藤。俺のことが許せないのに、なんでお前が謝ってるんだよ。そんなの、おかしいだろ」

 今回は一筋縄でいかないのは織り込み済みだ。加藤はちょっと頼めば引っ張られてくれるようなチョロいやつかもしれない。だけど、引っ張らなくてもついてきてくれる訳じゃない。そのちょっとが重要なんだ。

「頼むよ、加藤。俺はお前と一緒に……」

 いつの間にか遠慮してできなくなっていたゴリ押し。いつもの俺の無駄な熱さ。

「安芸くんはさ、わたしのどこがいいの?」

 そんな俺の語りを加藤は遮る。

「そりゃ、大切なサークルの仲間だし――」

「二年間も顔を出さなかったのに?」

「初心者なのにスクリプトを担当してくれただろ?」

「だったらわたしなんかより氷堂さんのバンドメンバーでもいいでしょ、二年間で仲良くなったでしょ?」

「サークルのためにお前は一番頑張ってくれてた……」

「結局、一番最初に抜けちゃったけどね」

 やめてくれよ、加藤。そんな揚げ足取りばかりしないでくれ。どっかの創作者みたいになんでそんなふうにいうんだよ。そんな些細なこと別にいいよって流してくれよ。

「お前は、俺の作品のヒロイン、だろうが!」

 言ってしまった、最後の砦を。最後の命綱を。

「…………それも、もう無効、かな。流石に二作品続けて同じヒロインって訳にはいかなだろうし」

 なんて風に言い切られてしまう。どうすればいいのか、なんてわかったら苦労しない。

「本当にごめんね、安芸くん。お代ここに置いておくね」

 そういって加藤はお金を置いて席を立つ。それは決して自分の分だけでなく、わざわざ俺の分まで。加藤はあの時のように謝っていた

 

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