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教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 7時間目

どうしてこんなに酷いことをするのだろうと僕は思いました。

 シリーズ累計20万部突破の大人気年の差ラブコメ第7弾!

「わたしは、このお話が、読みたかった」
――『教え子』の物語をついに描いた天神。
その新作の宣伝のため、担当編集者から提案されたSNS運用を始めるが、一向に認知が高まらない。
ヤヤにアドバイスを求めたところ、天神の自宅にて疑似新婚生活(!?)を送る冬燕と、予測可能回避不可能なご対面を果たすことに。
たちまち勃発する大惨事冬ヤ大戦――
「もう、天くんとキスした?」
「……は?」
「ヤヤは毎日ちゅっちゅしてる」
「はあああ!?」
挙句の果てには、星花と冬燕とヤヤの三人娘が、なぜか揃って動画に出演することになってしまい……?
これは“才能の話”ではない。もっと根源的な、物語の価値についての話だ。

 

 どこかでこういった言葉をよく聞きます『正しいことは痛いのだ』と。この言葉は言い換えれば『正論は時に人を傷つける』となるのですが、基本的には相対的弱者の語る台詞です。狭義で定義するならば『比較可能な二者において、劣っている要素を持つ者』と定義すれば良いでしょうか? より、広義の定義においては、『ある構成要素を持つ母集団内に所属している、その母集団内のある要素の平均値を下回っている者』となるかと思います。

 前者は『星花あずき』と『天出太郎』であり、後者は『ライトノベル作家』の『天出太郎』ということになるのであろう。天神が星花をライトノベルにおける教え子として成立させることができたのは『天出太郎』が相対的弱者でありながら、相対的強者でもあったからだ。

 『ライトノベル作家』としての彼が売上という観点から見れば相対的弱者であることは否定しようがない。しかし、物語序盤での彼はそうではない。前者の定義上、彼は相対的強者であったのだ。ライトノベル作家としての実績であり、星花にとっての尊敬すべき作家という事実でもあった。

 この時点では教え子と教師という関係性において、天神先生は大きく悩む*1必要はなかった。それは筒隠星花が天神先生が『天出太郎』先生であることを知っていようが知っていまいが、変わらない。

 しかし、筒隠星花はある種の天才であった。それは、本作の描写において明確に定義することは難しいかもしれないが、著作が売れる才能という一点においては疑いようもない天賦の才を与えられている。筒隠星花は『星花あずき』へと変身したのである。

 この段階において重要なことは『筒隠星花』=『星花あずき』という点です。*2つまり、『筒隠星花』(=『星花あずき』)と『天出太郎(天神先生)』との関係性は、彼女の視点においては何ら変化がありません。『天出太郎』の物語は彼女にとって売れているから良かったわけではない*3し、『天神先生』は年上の頼りになる大人であることに変わりありません。

 しかし『天出太郎』と『天神先生』にとってはそうではありません。

 『天神先生』としてのアドバイスは『天出太郎』としてのアドバイスを多分に含んでいたであろうし、それは『筒隠星花』にしている内は作家としての矜持も守ることができただろうと思います。しかし『星花あずき』に対しては全く別の問題になります。それは『天出太郎』は「売上が全てだ」と割り切ることも、「売上なんて考えなくてもいい」と胸を張ることもできなかったのです。

 その差を才能というのは非常に簡単なのですが、あらすじにも書かれている通りこれは『物語の価値』についての話なのです。

 星花は自分という人生の『物語の価値』をきちんと信じることが出来ています。天出太郎や天神先生といった尊敬すべき先達、冬燕やヤヤなどの友人あるいはライバル、久堂などの信頼できる仲間もそうでしょう。根本的な『自分は間違っていない』という自信でもあるでしょう。

 逆に天神先生はそういった要素に乏しくなっています。塾講師をやっていること*4、『社長』と『墓掘り』との関係性もそうで、編集者ともそれは変わらない。その要素は今巻で散々言われているとおり『俺は俺のことが好きな人間のことをあまり好きじゃない』という点に集約されているのだ。

 これらを踏まえて、今巻の激動を振り返ると、こうした積み重ねが全て吹き飛ばされていることが分かります。筒隠星花も星花あずきは天神先生や天出太郎とは師弟の関係であることは、自明の理であったはずです。しかし、それは言い換えるならば、天神先生や天出太郎単独、という認識であったことは否定できないでしょう。

 『天神先生』=『天出太郎』と比較したのならば、そのバランスが大きく崩れたことは間違いありません。加えて、筒隠星花(=星花あずき)が天神先生や天出太郎に向けていた感情は=で表せるものではなく、天神先生には絶対しないような天出太郎への感情や天出太郎には向けない天神先生への感情がほとんどでした。そうしたときに彼女がどうなってしまうのかは想像すら難しく、危惧されていた関係性の崩壊*5が現実的なものになるのかもしれません。

 しかし、彼ならば。自分のことを好いてくれる人がいる、という『物語の価値』を少しずつ信じ始めている彼ならば、きっとどうにかしてくれるでしょう。

 

ノシ

*1:いや、まあ、筒隠星花がクソほどにウザいという点においては悩んでいたかもしれないがそれは細かな話だ

*2:出版社側でのキャラクター付けにおいて本来とは違う振る舞いをしますが、その振る舞いが元々出来るという点において彼女に変化はありません

*3:自分の作品の売上と比較して『天出太郎』を下に見ることはない

*4:専業の作家ができない

*5:本当にどうしてこんな酷いことができるんでしょうね