泣き言 in ライトノベル

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re:lief~親愛なるあなたへ~

良作です。

re:liefの根幹を為すテーマ

一つは、再度のモラトリアムを通して人生のやり直しを図るということ。*1

もう一つは、人工知能と人間である。

一つ目のテーマをre:liefはほぼ満点に近い回答をしてみせたと思う。たとえば、恐怖に負けず一歩を踏み出したり、ついには希望を信じて待つことができるようになった日向子であったり、過去の失敗を精算しようとする流花であったり、ぽっかりと空いた穴を埋めようとするももであったり。

司に至っては交通事故で奪われたピアノでクラスメイトたちを見返すチャンスをユウとともに再度取り戻すという流れは非常に良かったと言えるだろう。

しかし、もう一つのテーマ、人工知能と人間に関しては落第点さえ大きく下回っていると思う。作中で人工知能というものはAという状況においてBと返すといったパターンを無数に用意するというものである。つまるところ事前に用意された回答を返しているだけであり、感情とはとても言い難い。

ももが作成した人工知能であるトトも同じであると説明されている。しかし、ももルートではトトが感情を獲得している。その根拠として挙げられているのが、ももの用意した“気まぐれ”を超える反応を返したことである。

後にこれは嫉妬という感情であることが判明するが、これには疑問符がつく。トトのこの行動は極めて合理的に説明することができる。ももがトトを作った理由は友達にするためである。しかし、トライメント計画を通してももと司の関係性が進展していくと、トトの存在が不要になる。司という恋人ができることで自分が不要になることを恐れた一種の自己防衛とも言える。

人工知能の三大原則としてたびたび語られる

1.人工知能は人間に危害を加えてはならない

2.人工知能は可能な限り人間の希望を叶えなければならない

3.人工知能は可能な限り自己の保存を行わなければならない

気まぐれなど機能の実装などトトに関してはかなり緩めの設定がされていたことが推察される。つまるところ、人工知能としての発展を鑑みるならば嫉妬という感情を持った人工知能という方向性ではなく、むしろ2.の違反という観点で書いた方がよほど説得力があったと思える。

そもそも人工知能が感情を持つことに関してたびたび言及されているが、この作品においては感情とは何かが言及されていない。つまり、1+xという状態が感情を持った人工知能だとするとxが定義されていないにも関わらず、危険だと言っているようなものでxは1かもしれないし、10かもしれない、ひょっとしたら10000かもしれない。とりわけトトに関しては感情の獲得後と獲得前ではさほど差異が認められず、非常にわかりにくくなっている。

そもそも高度化した人工知能と人間の区別は非常に問題となっている。

例えば困った人を助けるという人工知能がいるとしよう。実際の人間だと困っている人によって対応を変える。ならば若い女性なら助ける、美人なら助ける、目の大きさ、顔の輪郭、髪の長さ、鼻の高さなどなど様々なパラメータにより対応を細分化していく、すると限りなく人間に近づくが、結局は決められた回答を返しているだけに過ぎない。

感情を持った人工知能と普通の人工知能の違いは何か?

感情を持った人工知能と人間の違いは何か?

このふたつの問いに明確な答えをこの作品は返せなかったように思えた。

ましてや御雲島という特殊なケースを考えれば境界はさらに曖昧なものになっていく。

要するに物語上から必然性が失われていくのだ。

この作品から人工知能周りの設定を削ぎ落としてもさほど大筋としては変わらないシナリオが作れると思う。人工知能まわりの設定は確かにサプライズとなったが、ただそれだけに留まってしまった。演出上の手段ではなく、そういう設定を出すという目的にすり替わってしまっているように感じてしまう。

一方、人工知能と人間の差異をうまく描いたのが長谷敏司の『BEATLESS』だ。この作品ではしつこいくらいにhIEと呼ばれる人工知能は人間ではなくクラウド上にあるデータから最適解を見つけ、行動をなぞっているだけと言及されている。厳格な定義を敷けているわけではないが、きちんと明確な線引きをしている。他方でアナログハックと言われる概念を生み出し、形が振る舞いを見せれば感情が動かせることを明示し続けている。そこで振る舞いを真似ているだけで感情がない、それでもいいのか? という葛藤が生まれ、それでもいいと答えた結果、傑作のボーイミーツガールとなっている。

re:liefはそこまで至ることができなかったと思う。けれど、良作であることは間違いないし、だからこそ、良作どまりなのだと思う。もちろん、自分が期待値を上げまくっていただけかもしれないが。

ノシ

*1:司にだけは当てはまらないがそれはまた別とする