泣き言 in ライトノベル

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サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-

全六章構成のこの作品をやりきったあと、どうしようもないくらいの怒りに駆られてしまった

それはもちろん、シナリオに関してではない

少なくとも、十年以上待ち望まれた人気タイトル、前作素晴らしき日々の評判、個人としては後者しか理解していないが、それでも十分に期待以上の内容だったと思う

それでも怒りを覚えた、それはある意味では感嘆でもある

ここまで容易くキャラクターたちへの感情を反転させることができるかのと、衝撃を覚えた

とまあ、とりあえずはシナリオごとの感想にでも

~Ⅱ 『Abend』

Ⅱ Abendまでで大まかな一区切りということになる

体験版でもシナリオはここまでということになっている

いわばこのシナリオはグランドルート、言ってしまえばもっとも幸せな、最大多数の最大幸福を達成したルートと言ってもいい

小牧と小沙智がヒロインであるという見方もできるし、あるいはすべてが始まりだしたとも言える多くの伏線を吐き出し、種を植えた

そして、最後の問いかけは一番大きな伏線にもなった

一言でいえば、素晴らしい意外にはない

Ⅲ 『Olympia』

御桜稟ルート

これは彼女の過去を精算するルート

草薙直哉はなぜ筆を折ったのか、なぜ彼はそれを噤むのか、それを明らかにして御桜稟がそれを背負うルート

六年前に何が起きたのか、それが明らかになるルート

簡単に言ってしまえばナースコールをちゃんと使おうという話である

Ⅲ 『PicaPica』

鳥谷真琴ルート

彼女の行いが否定されるルート

鳥谷真琴は美術部を愛している、必死になって守ろうとするその理由が明らかになるルート

彼女は天才ではない、才人でもないだろう

だからこそ、あがかざるを得ない

鳥谷真琴が三年間目指して、あがき続けたそれらが否定され無に帰していき、最後に一つだけ何かを手に入れることができたそんな物語

Ⅲ 『ZYPRESSEN』

氷川里奈ルート

そして川内野優美の物語でもある

川内野優美が草薙直哉を認めるルート

伯奇、夢呑みの巫女、千年桜

誰かの夢を呑み、花を咲かせる千年桜の伝承を追体験しつつ、氷川里奈、川内野優美、草薙直哉の過去を振り返って、川内野優美が納得する物語

Ⅲ 『A Nice Derangement of Epitaphs』

夏目雫ルート

草薙直哉に夏目雫が救われるルートである

明石亘と草薙直哉……語られることのなかった一緒に手を組んでやったことが明らかになる話でもある

そしてこれまでの三人のルートを踏まえての、いわばⅢのまとめとしての役割を果たすルートでもある

ここから素晴らしき日々でもあったような圧倒的な物語に対する没入感に包まれるなんていう最高の気分が味わえる

Ⅳ 『What is mind ?  No mattar .  What is matter ?  Never mind .』

草薙水菜ルート

かつて天才画家になる前であった、草薙健一郎が最愛の妻であった草薙水菜を救う話である

これまで断片的にしか語られなかった夏目屋敷、草薙健一郎と草薙水菜、その二人の出会いと戦いの物語

このサブタイトルは彼女のものであり、おそらく彼女が一生涯悩まされ続けた命題であることには違いない

心とは何か、モノではない。モノとは何か、心ではない

心ってなんだよ、どうでもいいんだよ。モノってなんだよ、気にすんなよ

つまりはそういうことである

Ⅴ 『The Happy Prince and Other Tales』

夏目圭ルート

少なくとも、派生した藍ルートはともかくⅥへと繋がる選択においてはこれは夏目圭のルートであると断言する

なぜならば、夏目圭の想いに草薙直哉が応えるルートだからだ

夏目圭の想いはこれまで何度も何度も描かれている

そして、物語のテーマの一つを改めて草薙直哉に突きつけるそんなルートでもある、と個人としては思う

Ⅵ 『        』

サブタイトルはあえて書かない

そしてこれは夏目藍ルートである

それは何故か、これまで誰かのためにあらゆるものを捧げ続けてきた草薙直哉が、初めて誰かから捧げられるルートであるからだ

そして誰かのために絵を描き続けてきた草薙直哉が、自分のために絵を描くルートでもある

幸福な王子において、鳥は南へ旅立ち王子は灰色の像になって何もかもを失ったとしても、夏目藍だけはそばにいてくれる

そういう温かい物語

もっとも、想像以上に精神的にきつい内容ではあるが

 

さて、どのルートでも女の子はとっても可愛い、緻密に練り上げられた過去が草薙直哉が彼女たちに捧げたものこそが彼女たちが草薙直哉に恋をした理由なのである

だからこそ、Ⅵにおいて怒りを覚えた

無論、物語上において違和感などない

そういうルートにおける必然性の上に彼女たちは成り立っているのである

だから、最終章だけを取り上げて彼女たちを認められないというのは非常に視野が狭窄していると思う

そう思ってしまったのだから仕方がない

ある人は言った、それは誰が言いだしたのかも分からず、今ではすっかり定着してしまった言葉「CLANNADは人生

プレイしたことはない、けれど、それだけあの物語がキャラクターの生涯というものを誠実に描いたから生まれた言葉に違いない

決してサクラノ詩が人生である、と言いたいわけではない

草薙直哉の人生はきっとまだまだこれからだろう、彼は幸福をこれからも味わっていくはずだ

そしてまた誰かが言った「エロゲのヒロインは処女でなければいけない」

今ではキモオタの揶揄として扱われかねない台詞だが、本質は間違ってはいないと思う

誰かを救う主人公は彼女たちに何かを捧げている、対等な関係としてヒロインと向き合うならばヒロインも何かを捧げるのが筋なのかもしれない

それが俗に言う「処女厨」にとっては一生に一度の処女であったというだけに過ぎないのだ

即物的であるから、嫌われる……それはわからなくもない

救われたヒロインにとってはそれくらいしか捧げるものがない、これもまたわからなくもない

だけど、もっと捧げるべき重要なものがあると思う

だから僕は今ここで言おう

「エロゲヒロインは主人公の人生における伴侶でなければいけない」

エロゲにおいて人生が描かれることは少ない

それはかけがえのない青春の1Pこそが美しいのであり、その全てを描くのは冗長であり、蛇足であるからだ

だからこそ主人公とヒロインは幸せに暮らしましたという証が僕は欲しいのかもしれない

故にⅥにおいて怒りを覚えた

それはヒロインだと思っていた彼女たちをヒロインだとは思えなくなってしまったからだ

人生の伴侶とは、恋人である必要はなく、けれど共に人生を連れ立って行く者でなければならない

だから言わせてもらう

気持ち悪いだのなんだの揶揄されようがこれだけは言わせてもらう

サクラノ詩におけるヒロインは夏目藍ただ一人であると

そして、僕はこれから「処女厨」ならぬ「伴侶厨」を名乗ろうと思う

ノシ