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泣き言 in ライトノベル

ライトノベルの感想を真面目に不真面目に書きなぐるサイト

冴えない彼女の育てかた egoistic lily~please apology~7

egoistic lily~please apology~ 冴えない彼女の育てかた ss(二次創作)

 うだるような暑さを感じつつも、俺は東京都江東区有明3-11ー1、東京ビックサイトに来ていた。八月十七日、つまりコミケ最終日。俺と英梨々からすれば約束を果たすため日。隣には誰もいない。そして横を眺めると長蛇の列。コミケスタッフの名言(迷言?)が飛び交う中を俺は悠然と歩く。目的地は東A27begoistic lilyの配置場所。そして、英梨々と仲直りするための第一歩となる場所だ。

 いやこういう言い方は適切ではない。英梨々ルートのフラグを立てるイベントが起こる場所だ。伊織に頼んでおいたサークルチケットを携え、ビッグサイト内に入る。中はまだ閑散としていた。当たり前だ、まだ一般参加者が入場していない。

 俺は迷うことなく、英梨々の父親、スペンサーの叔父さんが待つサークルへ移動する。

「おはようございます。スペンサーの叔父さん。これはあいつ、英梨々に渡しておいてもらえますか?」

 俺が差し出したのはegoistic lilyとだけ書かれた白を基調としたシンプルなデザインの同人誌。製作に携わったものを除けば世界で俺だけしか見ていない特別な同人誌。

 それほど貴重で、特別なものでなくとも、同人誌を突き返すという行為がわからないほどスペンサーの叔父さんはオタク文化に疎くない。むしろ、娘のためを思って受け取ろうとしないくらいには、オタクで、子煩悩で、俺たちのことを心配してくれている素晴らしい親だ。

「中に英梨々に宛てた手紙が入っています。多分、英梨々が読んでくれればわかると思います」

 俺の真剣そうな表情で察したのか、スペンサーの叔父さんはそれを受け取ろうとする。

「君と英梨々の仲直りのために必要な事なんだね?」

 そう言って念を押してくる。もちろんだ、ただ仲直りするだけじゃない。英梨々ルートに突き進むためには絶対に必要な手順。いつまでも作家と信者の関係じゃ駄目なんだ。

「それと、英梨々がもし、それを読んだなら、フラグをへし折ってくるからもう少しだけ待ってくれって伝えておいてください。――絶対に感動するエンディングを見せてやるからって」

 それを聞くとスペンサーの叔父さんは納得したように同人誌を受け取ってくれた。

 そしてすぐさま俺は引き返す。まだまだやるべきことは残っている。コミケも大事だけど、今の俺にはもっと大事なものがある。

 

 家に着くとすぐさまパソコンに向かう。まだまだ、作業が終了していない。一心不乱にキーボードを叩き続けて、作業を終えた頃には、コミケが終了する時間だった。

「なんとか、間に合ったか」

 そう呟いてホームページの更新をしようとするが、その手が止まる。決まっているはずの選択肢を選ぶ手が止まってしまう。今なら引き返せると大団円のエンディングにたどり着けるのだと、心のどこかの俺が囁いていた。サークルメンバーの最高の幸せな形、四人の幸せの平均値を取れば間違いなく、最高値を叩き出すであろうあるべき姿。二人の女の子の犠牲の上に成り立つ悲しい形。

 一人の女の子のためにありとあらゆる犠牲を払う、それが俺自身を含むものであったとしても。雑念を振り払って、俺は覚悟を決めた。

「ごめん、皆」

 そうして俺は更新ボタンを押した。一人の女の子との関係性の糸が途切れた瞬間だった。

 

 そして、八月十九日、火曜日。本格的な夏到来と言わんばかりの熱気に包まれ、気温も三十度を超えている。

「おはよ、安芸くん。待たせちゃったかな?」

 加藤は、集合時間の三十分前に来ていた俺が五分しか待った、つまり重合時間の二十五分前に駅前に来ていた。明るい色のタンクトップ、白レースの半袖シャツ、ミニスカートから覗く太腿は白さが眩しい生足、そして頭にはどこか見覚えのある帽子をちょこんと乗せていた。

 加藤は今日も相変わらずお洒落だった。俺にしか見せたい相手がいないのにこんな凝ったコーディネートをしてきて無駄にも程がある、ほんっとうに。

「まさか! 待ちきれなくて三十分前に来ちまった。悲しきオタクの性だよ。むしろ、遅すぎたくらいだな、真のオタクなら二時間くらいは待って然るべきだな。コミケとかなら始発で来るのが至高だな」

 そうして、俺は本心をさらけ出してしまう。心のどこかに隠れている一部であっても確かな本心を。そんな俺の嘘を、大部分における嘘を加藤はフラットに受け流した、はずだった。どことなく、それは悲しい表情をしていた。

 だから言ったじゃん。キャラが立っちゃマズイって。

「んー、これは晴れなくてよかったというべきなのかなあ」

「曇天の方が過ごしやすいってのもあるからなあ、流石にこの時期の晴天はきついものがあるな」

「ねえ、安芸くん。本当に六天場モールでいいの?」

 そう、八月十九日、不死川ファンタスティック文庫の発売日。加えて、霞詩子の新刊発売日。加えて、重大発表ありと銘打ったサイン会が行われる日でもある。

 あの時みたいに、またゲームを作ろうって、そういう説得をしていくためのものではない。少なくとも俺にとってはそうじゃない。加藤にとってはどういうものなのか、俺にはわかりようもないことだ。

 だけど、霞詩子のサイン会には行かない。それはもう決まっていること。

「何言ってんだよ、加藤。お前が誘ったんだから、お前が楽しむことが最優先だよ」

 だから、駄目なんだって、加藤。ほんの少しだけフラットさが消えてるんだよ。ほんの少しだけ、嬉しそうな顔したら駄目なんだよ。

「なら、最初から私の役に立つ安芸倫也くんでいてくれるかな」

 だから、何でそんなにこっちに来ちゃったんだよ。何で俺から悪影響を受けたんだよ。でも、ここで切れちゃったら終わりきれない。俺が蒔いた種なら俺がきちんと後腐れなく片付けなくちゃならない。

 楽しそうな表情をする加藤に俺はこう言わなくちゃいけない。

「今回は早朝から並んで開店と同時に突入、人気店でお目当ての商品をゲットしてからほかの店を冷やかす戦法でいこうか」

 

 今だけはきちんと加藤を楽しませなくちゃいけない。

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