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泣き言 in ライトノベル

ライトノベルの感想を真面目に不真面目に書きなぐるサイト

冴えない彼女の育てかた egoistic lily~please apology~1

 我らがサークル、blessing software の初陣となった高校二年生の冬コミでは霞詩子と柏木エリの名前が猛威を振るい、処女作とは思えないほどの大盛況となった。その前後に起きたサークル内でのいざこざはとりあえずまあ、ここで述べるのはやめておこう。というより単純に思い出したくない。敢えて一つ述べるならBGM担当の氷堂美智留をサークルに引き込む際に条件して提示されたicy tailのマネージャー業が作品のヒットのせいというべきか、おかげというべきか忙しくなったことぐらいだ。その時の俺には新作のアイデアを考える時間もその才能も題材すらなくていたずらに高校三年生の時間を浪費してしまった。

 先輩は新作の執筆の方で忙しかったり、大学へ進学したことで顔を合わせて話す機会は減ってしまったことは正直寂しい。それでも俺のほんの少しの希望を十分すぎるくらいに採用してくれて早応大へと進学してくれた。あの二つのルートを突きつけられたあの日。俺が言った「自分から可能性をなくしてしまうのは、嫌だ」という我が儘を最大限に尊重してくれて。卒業式でも「倫也君とゲームを作るのは楽しかったわ。できればまた一緒になりましょう」って言ってくれて。俺はすごく嬉しかった。

 だけど今、俺はあの時早応大を勧めたことをちょっとだけ後悔している。霞詩子先生の新作ラノベはあんまり評判は良くない。もちろん、仮にも前作で五巻五十万部を売り上げた作家だ。ライトノベルとしては間違いなく売れている方に分類されているし、メディアミックスによるブーストが掛かれば十分売上で超えることは可能だと思う。ハーレムものという売れ筋で新規層が取っつき易くなったけど、逆にドロドロの恋愛模様を期待していた俺みたいなコアなファンからの評判は、ちょっと言葉にしたくない。

 ファンサイトの管理人だからこそわかるリアルな評価っていうものをいやでも目にしてしまって。一番の信者だからこそ、口にすべきか、口を紡ぐべきなのかは判断できなかった。もし仮に、同名大を勧めていれば、よりよい環境に霞詩子が身を置いていれば、こんなことにならなかったのではないかとそんな想像をしてしまう。

 そして英梨々は自らの才能を磨き上げるため美大へと進学した。俺は英梨々とは違う大学へと進学。俺が進学すると言った時、英梨々は随分と喜んでいた。あいつもあの冬コミの後からはそれまでの分を取り返すかのようにイベントに参加していた。徐々に凄くなっていくあいつを遠くから眺めて、あの一年間が何だか信じられない奇跡のように思えてくる。霞詩子と柏木エリ、オタク業界で知らぬものはいないくらいの位置に二人は登りつめた。今更になってもう一回、ゲームを作ろうなんて俺には言い出せなかった。大学に進学したのも、それが大きい。少しでも二人がいるところに近づきたいと思った。もう一度味わいたかった、あの、作品を生み出す苦しみを。だからこそ、正社員の収入の高さを諦めて、それどころか大学生になって増えるはずのバイトの時間すら削って、自分を高めることに専念した。

 それでも実感できたことは俺には創造的な才能も、努力する才能もないってことだけ。結果的に高校三年生に戻ってしまう。霞詩子と柏木エリの無駄遣い。そう言われることが怖くなったあの一年間に。むしろ、あの冬コミで大コケしてくれた方が『blessing software』は続いていたのではみたいな最悪な考えまで思いついてしまう。あの冬コミを否定するのは、あの二人をも否定することになるのだから。

「安芸くん、最近難しい顔してばっかりだよ?」

「……なんだ、加藤か」

 そして冬コミで輝きを放ったメインヒロインは俺と同じ大学にいる。あのあと(冬コミ)も加藤との間に特筆すべき進展はなかった。告白しようと思わなかったこともないが、オタクだから三次元に対してそれをするというハードルの高さを除いても。

 あの時(一巻二章)で振られていた俺が加藤恵(メインヒロイン)に改めて告白するのはハードルが高すぎた。

「安芸くんはさ、もうゲームを作ったりはしないの?」

「もちろん作りたいけどさあ。ただ、あの二人に恥じないようにって考えちまうと中々言い出せないよ。他のサークルに入るって言うのも何だか裏切りみたいだからさ」

「すっかり綺麗好きになっちゃったね。安芸くんは」

「? 加藤、それってどういう意味だ……?」

「わかんないかなぁ? 安芸くんは二年前、そんなに気にしてなかったと思うよ? むしろ、率先して汚い仕事をやるような人だったよ、安芸くんは。一度、しっかりと考えてみるといいよ。私もあのときはなんだかんだで楽しかったし」

 二年前、俺と加藤が運命的な出会いをして。

 そんなこともすっかり忘れてしまって。

 英梨々と先輩と美智留に頼み込んで、加藤をメインヒロインにしたゲームを作ったあの一年間。

 楽しかったなあ。なんだかんだで。マスターアップ直前でデータが吹き飛んだとか、笑えない話もあったけど文句なしに一番充実していた時間だった。冬コミで「申し訳ありません。完売です」と宣言した時が多分最高潮。で、今はこれか。

「なあ、加藤。教えてくれよ、一体――」

「あ、ごめん。私今からバイトなんだ」

 いつの間にかスマホで電話をかけていた無慈悲に断りを入れる。

 加藤の言う二年前、学園祭で丙瑠璃の演技をしていた加藤恵とは思えないくらいフラットな表情で、フラットなスマホ画面をタップしていた。俺、あのときのお前(加藤恵)に見とれてしまったのにな。

 

 ……そういえば加藤のフラットな表情を見たのは随分と久しぶりな気がする。

第二話